8月は夏真っ盛り。日々暑さとの闘いです。毎年記録的暑さが更新され、来年の今頃は一体どうなるのだろうと不安になります……。そんな8月になると思い出されるゴスペル曲が、”Free At Last”です。なぜこの曲が8月と関係があるのでしょうか。

ゴスペルソング”Free At Last”の意味とその背景についてみていきます。

演説『I Have A Dream』の最後

1963年8月28日、アメリカのワシントンで自由と平等を求めた25万人による大行進が行われました。その行進を導いていたのが、有名な「Martin Luther King, Jr. (マーティン・ルーサー・キング・ジュニア)」牧師です。キング牧師はその大行進の時に、有名な演説『I Have A Dream』を語りました。以下、その演説の後半部分を紹介します。

自由の鐘を ジョージアのストーン・マウンテンから鳴り響かせよう

自由の鐘を テネシーのルックアウト・マウンテンから鳴り響かせよう

自由の鐘を ミシシッピーのあらゆる丘や塚から

あらゆる山腹から鳴り響かせよう

自由の鐘を響かせよう

私たちがこの鐘を鳴らす自由が許される時

あらゆる街や集落、あらゆる州や町々から鳴り響かせる時

私たちはその日を早めることができるだろう

それは、神の子どもたち全て、つまり黒人も白人も、

ユダヤ人も異邦人も、

プロテスタントもカトリックも皆一つに手を取り合い

この古き黒人霊歌の詞を歌う日を

” Free at last! Free at last! Thank God almighty, we are free at last!

(ついに自由に! 自由になった! 偉大なる神に感謝、私たちは自由に!)”

 

Martin Luther King, Jr. (1963) 『I HAVE A DREAM…』より

要約すると、キング牧師はこう語りました。

「今私たちは、肌の色が黒いからというだけで、差別されている。しかしいつか全ての人が平等に扱われ、自由が与えられる日が来る。そしてその時、皆が一つに手を取り合って、黒人霊歌を賛美するのだ!」

1960年代は、まだまだ人種差別が色濃く残っていました。肌の色が違うからという理由で、レストランに入れなかったり、トイレや、バスの座席も区別されていました。今の日本では考えられないことかもしれませんが、それが国や州として当たり前のように行われていたのです。そしてそれは、1600年頃までさかのぼります。

ゴスペル音楽のルーツをたどると、1600年頃の奴隷時代にたどりつきます。アフリカから強制的に連れて来られた人々は、アメリカで奴隷として働かされました。彼らはその苦しい生活の中で、神にうめき、叫び、祈ります。その歌が、「Negro Spirituals (ニグロ・スピリチュアルズ)=黒人霊歌」と呼ばれるものです。この黒人霊歌が、ゴスペルを生むきっかけとなりました。キング牧師が演説の最後に語った「この古き黒人霊歌」というのは、そのような音楽です。

では、黒人霊歌”Free At Last”は、どのような歌詞なのでしょう。

黒人霊歌”Free At Last”

Free at last, free at last,
Thank God almighty I’m free at last.

ついに自由に! 自由になった!
偉大なる神よ 感謝します 私はついに自由だ!

<1>
Surely been ‘buked, and surely been scorned,
Thank God almighty, I’m free at last.
Still my soul is a heaven born,
Thank God almighty, I’m free at last.

何度もけなされ 軽蔑されたが
偉大なる神よ 感謝します 私はついに自由だ!
この魂は今なお 天にあり
偉大なる神よ 感謝します 私はついに自由だ!

※ゴスペルの歌唱スタイル「コール&レスポンス」が用いられます。
ソリストが”Surely been…”とコール=呼びかけるように歌い、それに対して会衆が”Thank God…”とレスポンス=応答するように歌います。

<2>
If you don’t know that I been redeemed,
Thank God almighty, I’m free at last.
Follow me down to Jordan’s stream,
Thank God almighty, I’m free at last.

私が贖(あがな)われたことを知らないのならば
偉大なる神よ 感謝します 私はついに自由だ!
私についてきて ヨルダン川へ向かおう
偉大なる神よ 感謝します 私はついに自由だ!

奴隷たちは、「ついに自由だ!」と歌いました。しかし、本当に自由であったわけではなく、現実は変わらなかったはずです。しかし、将来いつか必ず自由になるんだという確信があったのです。キング牧師は、この想いを込めて、演説の最後に”Free at last!” と叫んだのでしょう。

しかしキング牧師は、この曲にもう一つの意味を込めていたと思います。

2つの自由

キング牧師は、おそらく「2つの自由」の意味を込めてこの曲を演説の最後に引用したのではないかと思います。1つは、奴隷時代から続く差別や迫害などから解放される肉体的自由。もう1つは、霊的自由です。「今の苦しい人種差別はいつか終わりを迎え、自由を手にする日がやってくるだろう。しかし私たちすべての人は、死を迎える。たとえ肉体的に自由になったとしても、終わりがやってくる。それは究極的に絶望に思える。ところが、聖書に書かれている通り、イエスは十字架にかかり、死からよみがえった。それは、私たちが恐れる死に対して勝利した証なんだ。だから聖書を信じる私たちは、死さえも打ち砕き、天の御国で共に黒人霊歌を賛美するのだ!」

キング牧師のそのような想いが、ワシントンでの演説から伝わってくる気がしました。

今の私たちにとっての「自由」とは何でしょう。
自由とは、自分の好きなように生きることなのでしょうか。

暑い8月に、”Free at last! Free at last!” を歌いながら、ふと立ち止まって考えてみたいものですね。

参照:

Martin Luther King, Jr. (1963)「I HAVE A DREAM…」, 2018年7月31日 Access.

History .com 「I Have a Dream Speech」, 2018年7月31日 Access.

Abingdon Press : Songs of zion. Nashville, Tenn. 1981

 

 

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Post Author: ARTOS事務局

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